ハサミ男 (講談社ノベルス)
「シンプル」かつ「巧妙」。精巧に作り上げられた秀作。
一回読み終えた後、もう一度最初から読み返したくなる話。
騙された瞬間、一瞬、目の前がぐるっと回ったような錯覚を覚えました。
久々に読み返しても、面白かったです。
タイトルは最初、「ストレート」という感想しかなかったけど、
読了後は「これしかない」という感に変化。そこにすべてが集約されている気さえする。
でも、このレビューは流し読みして、評判良かったな、ぐらいの認識で、
話を読んでもらった方が、楽しめる・・・ような気もする。
とりあえず、誉めたいから誉めました。以上。
ハサミ男 (講談社文庫)
叙述トリックものということをすっかり忘れて読み始めたので
完全にだまされました。
いや、忘れてなくてもだまされたかもしれない。
ただひとついえるのは、手品を見るときに
「トリックを暴いてやろう!暴いてやろう!」と意気込んで見る人には
向いていない小説でしょう…
まっさらな気持ちでどうぞ。
ただひとつ不満といえば、主人公や被害者の女の子が
どうしてああも自分を傷つける行為を繰り返すのか
いまいちはっきりしない。
読者が自分で考えて補填しろ、ってことなのだろうか。
伏線はりまくりで投げっぱなし感がしてそこが−★ってことで☆4つです。
ハサミ男 [DVD]
原作は良く使われる思い込みのトリックが使われているため、絶対不可能といわれていた殊能将之の小説。なるほど、着目点を変えてこういった設定にしましたかといった感じですね。
とても難しいのですが、この作品に関しては映画を見ると、小説の面白さが損なわれるし、小説を読むと映画のトリックを愉しむ事が出来ません。なので映画好きの人は映像を、小説好きな人はまず原作を読む事をお勧めします。それぞれ自分の好きな領域でまずは愉しんだほうがいいと思いますので。
古めかしい映像、音楽、演出と、ちょっと独特の空気はありますが、それなりの個性が感じられる野心作なので、これはこれでよく出来ているサイコサスペンスだと思いますよ。
鏡の中は日曜日 (講談社文庫)
十四年前、マラルメの研究者・瑞門龍司郎が住む梵貝荘で起きた殺人事件。
その事件をもとに、当時現場に居合わせた作家・鮎井郁介は、
「梵貝荘事件」を執筆するが、なぜか未完のままにしていた。
現在の名探偵・石動戯作は、事件の再調査を依頼されるのだが……。
本作は全三章からなり、第一章はアルツハイマー病とおぼしき正体不明の
「ぼく」による一人称の語り、第三章は石動に焦点化した三人称の語りと
鮎井の手記、そしてメインパートとなる第二章は、2001年夏の「現在」と、
1987年7月7日の「過去」のエピソードが交互に配されるカット・バックの
構成が採られています。
第二章の「過去」パートは作中作(鮎井の「梵貝荘事件」)で、梵貝荘の中庭において
弁護士が殺され、死体の周囲に十五枚の一万円札がばらまかれた事件が描かれます。
そうした奇妙な状況は、なぜ生じたのか?
カギとなるのは、詩の脚韻という形式性を重んじたマラルメの象徴詩。
名探偵・水城優臣は、犯人が殺人に託した象徴的意味を読み解きます。
ところで、この名探偵は作中現実に実在するのですが、実は※※、
というのが、本作のトリックにおけるひとつのポイントとなります。
また、現在においても殺人事件が起きますが、シリーズ読者に
とっては、もっとも意外な人物が「被害者」となることになります。
本作はとりあえず、綾辻行人の《館》シリーズに対するパロディと
オマージュを意図した叙述トリック作品ということができるでしょう。
愛のないパロデイには辟易させられるだけですが、さすが
著者は、センス良く、スタイリッシュにきめてくれました。
そして、過去と現在、それぞれの事件のモチーフにマラルメとアルツハイマー病患者――
詩人と障害者――を選び、対置させてみたところからは、本格ミステリへの犀利な批評性
を窺うことができます。