エスケープ(紙ジャケット仕様)
大御所ギタリスト・森園勝敏が自らのバンド『Bird's Eye View』とともに製作した力作。
この時期の森園氏はナベサダやジョージ川口らと共演したりと、ジャズへの傾倒を見せていた時期。
それを見事に形にしたのがベン・シドランの名曲「キャディラック・キッド」のカバーだ。
ベン・シドラン必殺のリズムとも言うべき連拍のリフレインを生かしながら、テーマ部分を4ビートに作り変えたアレンジは絶妙で、白尾泰久氏のサックスともども“名演”とも言うべきプレイを聴かせてくれる。この曲は当時フュージョンからジャズ寄りの演奏をしていたこのバンドのメインの楽曲であり、ライブでも大喝采を浴びていた曲でもある。
またしっとりしたボーカル曲も秀作揃いで、森園氏の充実ぶりが窺われる。コーラスを担当した当時の中村哲の奥サマ・中村裕美子の存在も光っている。もちろん森園氏の泣き節ギターも絶品だ。
ジャズ・フュージョンのバンドの割りにはドラムが若干カタい感じがするが、バンドのまとまりも非常に良く、全体的に落ち着いたムードて統一された非常に丁寧な作りのアルバムだと思う。
ちなみにこのアルバム、スイング・ジャーナル誌の人気投票で3位にランクインした実績を誇る。
あの四人囃子で縦横無尽にギターを弾きまくっていたロック・ギタリストのソロ作とは思えない現象として、当時は大いに話題になった作品である。間違いなく日本のジャズ/フュージョン界に足跡を遺した名作中の名作。
北方領土 特命交渉 (講談社プラスアルファ文庫)
鈴木さんと佐藤さんの対談形式で、北方領土返還交渉を政治、外交のコンテクストの中で語っている(暴露している)。そこには、まさにドロドロした人間関係、北方領土ビジネスと言う利権、中央アジア問題が北方領土返還に鍵となる可能性等が綴られている。もちろん、ご両人の言い分を全て信じる事を良しとはしないが、通常一般国民が知りえない外交の流れの記載は間違いがないように思う。また、ここまで特定の外務官僚や袴田教授を非難するにはそれなりの覚悟があっての事だと思う。守秘義務がある中で、語りつくせない部分はあるのだろうが、国策捜査という「時代のけじめ」のワナに掛かってしまったご両人の今後の活躍を祈りたい。
NGO、常在戦場
世界の紛争地帯の難民キャンプや天災被災地の現場において活躍する,日本のNGOを事業として成り立たせたのが,この大西氏.鈴木宗男氏とのバトルなどで有名になったが,本人はいたって素朴な人間らしい.
その大西氏の初めての著書であり,10年を迎えるPeace Winds Japanの歴史とその闘いの記録である.その活動は,イラク,アフガニスタン,東チモール,モンゴル,コソボ,パキスタン,スマトラ島沖地震などに展開された.
エンタープライズとしてNGOが支援する場合,何が必要か,どのようにすればうまくいくか,どこから金や物資を調達し,いかに運ぶためのロジスティック網を構築するか,安全の確保はいかにするか,ローカルの人材を育てるのはどうすればよいか.このような支援活動のツボを,ブラッドフォードでの大学院時代からクルディスタンに入り込み,その後も世界の戦場を渡り歩き,欧米のNGOの活動を見聞きするうちに会得していった.NGOは,一般の会社のシステムと何ら変わらないオペレーションが必要なのだ.
ボランティアは草の根なのだから,公金は使わせない,勝手にやりなさいという,冷やかな視線が外務省,いや一般社会からも浴びせられていたのだが,大西氏らの先進的なNGOの活躍が,その認識をいくらかは変えていった.「やったろやないか」という,そのスタンスを全編に感じることができ,一気に読み進むことができる.
国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて
私はほんものの外交、政治といったことからは遠い野次馬的一読者にすぎないが、
本書で一躍流行語になった感のある「国策捜査」がいわば「考えない世論」の時代的要請に応える政治権力の発動とするならば、本書は相反して「考える世論」を構成する主体的判断者にむけた、著者の渾身のメッセージ、ということになろう。
通読した心証では、著者は全身全霊を傾けて日ロ外交交渉舞台裏の職務にあたり、本書の記述にも大きな嘘は無いように思われる(当然、私ごときに検証する術はないものの)。が、いずれにせよそれには主観的判断として、という但し書きがついてしまうのである。ことは時として当事者近隣者の主観からまったく離れたところで人を刺す。著者は鈴木宗男氏を「嫉妬に鈍感」と評している。じつは有能な著者自身も全く同じ陥穽におちた、ということではなかろうか。
この重すぎる問題についての感想はなんとも言いようがないが、一つ希望を持たせられるのは、厳しい取り調べ対立の中で成立した、担当検事との非常に深いところでの交流である。同時に、ロシア、イスラエル関連で披瀝される沢山の挿話も、これとは別に注目熟読に値する。
中央官庁関係でなくても、なんらかの意味で組織、政治、外交、情報に類することを扱わざるを得ない多くのひとたちが、一度は眼を通しておくべき著作と思う。