イザベラ・バードの日本紀行 (上) (講談社学術文庫 1871)
外国の、近代的な生活インフラが未整備な地域を、長い期間
自由旅行した経験のある人には、バード女史のものの見方が、
いかにフェアで、理性的で、温かいかが良く分かると思います。
人々の生活ぶりの不潔さや、学のない貧しい農民の無気力な様子を
批判的に描く際の筆致は容赦ないですが、彼女の旅の過酷さを考えたとき、
積み重なっていく疲弊の中で現地社会への公平な視線を維持することが、
どんなに強い意志を必要とするかは、似た環境に身を置いたことの
ある人でないと、理解しにくいかもしれない。
著者はビクトリア朝英国の女性旅行家ですが、完成された近代人。
その知性と感性は、強靱でありながら、市民社会に育まれたまっとうなのもの。
現代に生きる私がタイムトラベルして、江戸期そのままの暮らしぶりが遺る
明治初頭の東北地方を旅しても、見るもの聞くものに、彼女とほとんど
同じような驚きや感動、嫌悪感を感じるに違いない、と思います。
そういう意味で、この本は「バーチャル江戸体験」のためのテキストと
しても、至上の作品だと思います。
軍歌メモリアル~明治維新から130年~
このCDは、キングが戦後に録音した軍歌をかき集めたもの。キングの戦後録音は当たり外れの差が激しいのですが、総じて見れば最高とまではいかないものの、優良な軍歌集であることがわかります。特に、個人の歌手によるものよりも、男声合唱団によるものが優れた録音です。また、押し並べて質の低い「~出身者」モノが皆無である点も評価できます。
ただし注意しなければならないのは、ここに収録されている曲はキングがバラ売りしているCDと音源が被っているということです。そのため、手持ちのCDと歌手などを参考にして音源を比較し、ダブりの数を見極めておく必要があります。
逆に、こういう方は少ないとは思いますが、この軍歌集さえ手元にあれば、キングの戦後モノ軍歌をバラで買う必要はほとんどなくなります。ダブっていても、手元のCDが少ないならば買っておいた方が後々得をすると思います。ご自身の蒐集と予算と相談して判断してください。
ダブりがない人には星5つか4つ。(ビクターの全集が優良なのでそれに比べると星4つ)ダブりがある人、特に優良な録音である男声合唱団吹き込みのものにダブリがある人は、そのダブりの数が増えるほど、この軍歌集の価値も下がってしまいます。
東京時代MAP―大江戸編 (Time trip map-現代地図と歴史地図を重ねた新発想の地図-)
現代の東京の地図を半透明のトレーシング・ペーパーに印刷し、江戸時代の地図はカラーで印刷し、それら2つを重ね合わせると、江戸時代と現在の東京の位置関係を知ることができるという優れもののマップです。一度じっくりと手に取って眺めてください。
歴史地図が好きでよく眺めています。残念なことに江戸時代の遺構は、東京に散見していますが、関東大震災、東京大空襲という未曾有の惨事により、江戸時代を彷彿とするものはほとんど残っていないですね。
ただ詳細に眺めてみますと、芝の増上寺の寺域は江戸時代とあまり変わっていませんし、浅草寺も境内は大分狭くなりましたが、しっかりと浅草の地にあるのはご存知の通りです。
本郷の東京大学は、加賀中納言殿、水戸殿、松平大蔵大輔跡に建てられたのが解かりますし、東京ドームや小石川後楽園は水戸殿の跡です。御三家だけあって実に広大な領域です。早稲田大学は井伊掃部頭と御三家の尾張殿の土地に建てられています。大学と大名屋敷の関係を調べると面白いですね。
市谷の防衛庁も尾張殿で、徳川の力の大きさが伺えます。丸の内の所謂「三菱村」は、松平で固めていますし、国会議事堂の場所に永田馬場があったのも興味深いです。
迎賓館のある広大な赤坂御用地は全て紀伊殿ですから、いかに御三家の紀州、水戸、尾張が権力を握っていたかが伺えます。
旧の神田上水である神田川は同じ流れを保っています。隅田川の両国橋の位置は少し変わっていますが、回向院は同じ場所にあります。赤坂プリンスホテルは紀伊殿ですし、ホテルニューオータニは井伊掃部頭です。このように現在の建物から見ていくのもまた興味をひきます。
後半は、「忠臣蔵」「桜田門外の変」「江戸の『粋』を歩く」「江戸深川散歩」が掲載されており、それも楽しい読み物でした。