発達障害 境界に立つ若者たち (平凡社新書)
著者はエリート医師でも心理学の教授でもなく、フリーランスのイラストレーターである。山下氏の経歴を読むと高校中退して、外国に美術留学、帰国して「生活のため」、都内のサポート校(成績不振児が通う学校)の教諭となる。そのサポート校A学院での18年間の奮闘を振り返った本である。
普通の学校に通えない子供の居場所として、こういうサポート校のニーズが高まった時期にはA学院の経営も順調だったが、教育界に少子化の大波が押し寄せる。本来なら普通高校へ進学することが難しいような児童でも受け入れる高校が増えてきたために、A学院は進退極まるが、その激流の中でも愛情を持って特殊な事情をもつ子供たちを受け入れてきた年月が1冊にこめられている。
本のタイトルは『発達障害 境界に立つ若者たち』になっているが、この本に取り上げられている6人のA学院生のうち少なくとも4人は「知的障害者」であり、「発達障害者(自閉症スペクトラム)」圏の人ではないように思うのだが・・。アスペルガー本を探して読みたい人にはちょっとだけ肩透かしかもしれない。アスペルガー症候群の特殊支援教育について主に語られている本ではない。「アスペルガー本の需要」というのは、「知的障害者の療育・特殊支援教育について語られた本」とは別である(私の見たところでは)。※アスペルガーの卒業生も1人登場する。
う〜ん、私自身は勉強がわからなくて困る、という経験がないので(自慢めいていてすみません)、この本に取り上げられている例のように「ものすごく勉強ができない子」「高校生のはずなのに四則計算ができない子」「普通に新聞に載っている漢字交じりの文章が音読できない子」が抱えている問題とは別個の問題にぶつかることになったのが十代なのだが・・。そういうアスペルガー固有の問題には大して触れられていない本なので、知的障害者に興味のない人は・・・。「境界に立つ」というのは、知能が健常者と知的障害者のボーダー(IQ70)であるという意味なのだろう。
アスペルガーの療育や特殊支援教育に関する本を書いている人は、日本人でも外国人でも医師が大半で、それってどうなんだろう。 山下成司氏のような美術家が、PDDの療育から特殊支援教育までばんばん実践・介入してきてくれて、こういう低い目線、当事者との言葉や数字にできない共感や思いやりをいちばん大事にして、アスペルガー本を書いて欲しいと思う。