ポートレイト
この作品で奏でられる感性は同じ曲を他人が弾いたらつまらなく聞こえてしまう程の素晴らしさが有ります。 BGMとして疲れを癒す目的で聴こうとしてもじっくり聴き入ってしまう素晴らしすぎる感性、技術とでもいうのでしょうか。 音源でこれだけの表現が出来るのですから、生演奏をいつか聞いてみたいと思わずにはいれない作品です。
ライヴ・イン・コンサート [DVD]
1998年2月8日 ドイツ・シュツットガルトでのライヴ。ミシェル・ペトルチアーニは1999年1月6日に亡くなっているので死の11ヶ月前ということになるのだが、死の影は全く感じられない素晴らしくエネルギッシュな演奏を繰り広げてくれる。
『So What』と『Take the 'A' Train』以外はすべてミシェル・ペトルチアーニのオリジナル。CDでは分からないミシェル・ペトルチアーニの凄さがこのDVDは見事に伝えてくれる。彼の場合普通なのは腕の長さだけで、骨は砕けやすく、足はペダルにとどかない。それでもこの演奏。間違いなくフランス最高のジャズ・ピアニストは彼だった。
何という音の明るい輝きだろう。生命力に満ちている。誰が彼以上に輝く音を出せるだろう。
彼の偉大な功績にフランス政府は2002年6月にはパリ18区の広場にミシェル・ペトルチアーニ広場を命名し、彼の墓はパリのペール・ラシェーズ墓地内、フレデリック・ショパンの墓からほど近い場所に設置した。すばらしい国だなフランスは。
ショパン:ノクターン全集(通常盤)
思い切ったことをやったものだ。ショパンのノクターンは、有名曲は別としても、マズルカと並んでディープな世界であり、「全集」を通して聴くのはいささか辛いものがある。生誕200年だから、ユンディ・リだから猫も杓子もショパンを買うと思っているのだろうか。もっとも、ショパンをちゃんと理解もせずに演奏された全集盤が「名盤」扱いされてきた現状に対する挑戦という意味でなら分からぬでもないが。
ユンディ・リはショパンを安心して聴ける数少ない現役の一人だ。若いし本当にショパンの深みを知り尽くすのはまだ先のことだろうが、才能は経験を凌駕する。どんなに完璧な技巧だろうがショパンのデリカシーを理解していない演奏は聴く気にならない。若干舌足らずな部分もあるがしかし本質を外していない安心感が彼のディスクを手に取らせるのだ。
本盤も実にナチュラルでオーソドックスなショパンなのだが、不思議なことに、変な癖も作為も感じられないのにどこを切ってもユンディ・リの佇まいが存在している。作曲家を尊重するような顔で自己を主張することしか出来ない凡才と比べると、類稀なる才能と個性を感じる。まことに懐の深いピアニストだ。この音がどこまで深みを湛えた音に変貌していくのか、楽しみであり心配でもある。
ユンディ・リ ショパン・ベスト
ユンディ・リがDGに残したショパン録音からの選集。
小品でも大曲でも、茫洋として計り知れない規格外のスケールを感じさせる。ノクターン9-2などは有名曲だけに、よほどの才能とセンスがなければ音楽として成立すらしない難曲なのだが、ここまで聴かせる演奏はなかなかないだろう。最後のソナタも、古今の名演を凌ぐ素晴らしい出来で、彼の音楽的感性の豊かさを実感できる。
だが、「ベスト」盤に付きものの異論は本盤にも該当する。収録時間の関係か、ショパン・コンクールでも弾いた「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」の名演を収録しなかったのは解せない。有名曲を集めれば売れるという考えでは、演奏家の本当の実力は見えて来ない。彼のような大器には、相応の選曲と曲順を考えるべきだろう。
今後の活躍が期待される、本当に実力のある人だけに、色物際物的な売り方はもうやめてほしい。移籍したEMIでは「ノクターン全集」という超ど級のアルバムをリリースしているが、この対極的なやり方が今後どうなるか。