それがし乞食にあらず (平田弘史傑作選 (昭和四五年~四六年))
時代劇におけるセンスオブワンダーをこれほど持ち合わせた漫画家がほかにいるだろうか。 各登場人物たちの武士たる故の あるいは武士ならざる為に入り乱れる感情、血、臓物。
決して美化もせず卑下もしない客観的な視線、それでも溢れ出る激情をまったく余すことなく書ききっている。
本人がどういう意思で書いてるのかは分からないが、エンターテイメントの範疇で扱えるものではない。
血だるま剣法・おのれらに告ぐ
今回復刊されたこの血だるま剣法は長い間、出版不可能な本として、漫画マニアの間で認識されてきた本です。当時の貸本という媒体は低俗なレッテルを世間から貼られており、この時代の作品においては、評価されていないものが沢山ありました。作品の内容、作画がイマイチのものが多いのも事実でした。その中で突出して面白い、凄い作品というと一握りの作家達にどうしても限定されてしまうのも事実でした。作家自身も生活のために、書下ろし単行本(約130p)で叩き付けるようなタッチで量産していました。この時代の作品が復刻されるというのは、出版界ではめったに無いことです。平田先生も当時から大阪で魔像に作品を定期的に掲載したり、書き下ろし単行本シリーズを発表していた人気作家の一人です。その大胆なコマ割(A5のページ見開きいっぱいに使うことも)、コマの中に描写を留めず、奇声、や登場人物の刀がはみ出ている(裁断されているところまで、描ききっています~)作法は現在読んでみても斬新なものがあります。本作品にはありませんが、先の部分を断ち切ったGペンで書いたと思われる「!マーク」の横に同じく読み仮名として「バ~ン」と書き加えてあったりしました。当時の時代映画さながらに、読者に臨場感を与えるように、創意工夫を先生が行っていたことが伺えます。今回の血だるま剣法も例のごとくコマという枠の制約にとらわれず奇声音の表現がはみ出しまくり、映画さながらの迫力を醸し出しています。とにかく、疾走する幻之助の怒り、執念を最初から最後まで本人になったつもりで読んでやって下さい。読んだ後の、脱力感、不安感、問題提起感が大きい作品ですから。
大地獄城,血だるま力士
1961年に発表された「復讐 つんではくずし」のリメイク作として69年に発表された「大地獄城」、75年発表の「血だるま力士」、76年発表の「頭突き無双」の3作が収録された作品集。
著者の初期の代表作のひとつと呼ばれるとともに、その残酷な描写が問題となったということは知っていたが未見だったので、読むことできて本当に嬉しい。以前は全くといっていい程見かけることなかった著者の作品が復刊される近年の状況は本当にありがたい。
「大地獄城」は本当に凄い作品だ。少年誌に連載されていたのが信じられない。今の少年誌では絶対に許されないだろうと思える程リアルな描写、救いようのない残酷な(悲しい)ストーリー。編集部による作品解説(これが非常に丁寧でいい)によるとオリジナルの「つんではくずし」の描写はもっと凄いそうだ。
「つんではくずし」は印象に残る素晴らしいタイトルだ。何故69年のリメイク時には「大地獄城」になってしまったのだろうか。少年誌らしくわかりやすいものにするという編集部の意向が働いたのであろうか。解説では触れていないが個人的には非常に気になる。
平田弘史は「絵」だけで勝負することのできる日本が誇る漫画家である。それなのに一般的な知名度は低い。ファンとしては非常に残念だ。