わがボス 中内功との1万日
流通革命のカリスマ中内功氏の古参秘書だった方の中内氏に対する評伝的な作品。会社の内幕や毀誉褒貶の難しい中内氏の本性も臆することなく書いている。事実を書き残すことが著者の使命であり、中内氏が鬼籍に入られたので書ける時期が到来したのであろう。
マスコミを利用したそのイメージ作りのうまさと世論の追い風を受けて高度成長期に併せて急成長した「庶民の味方」だったダイエーと中内氏。鷹のような眼光の鋭さと攻めの経営で「経営の神様」に上り詰めるのだが・・・。
その裏側では江戸時代の大店がそのまま肥大化したような企業風土で、オーナーひとりとあとはすべて使用人という感覚であり、中内氏に意見するものは重役であっても社長車から町の真ん中で下車させられ、「明日から来なくていいから」と告げられるのである。また有能な社員の多くが過労やストレスで亡くなり、幻滅してやめた人や滅私奉公とういえる長年の献身にもかかわらず弊履を捨てるようにリストラされた人も多いようだ。また財務上の公私混同による私的な借金や慢心による放漫経営なども許されるものではない。魔王のような外面とはうらはらに、妙に人間くさい気弱な一面や、やさしさ・思いやり・気配りを忘れない人でもあったようだ。本来秘書のはずの著者が古川橋店の店長に志願したら、自転車の海をかき分けて社長車のベンツで様子を見に来てくれるあたりはほんとうにほほえましい。
バブル後は黒い噂や不明朗な蓄財などバッシング報道ばかりが目立ち「庶民の敵」「墜ちたカリスマ」となってしまい、最後は素寒貧でかなりみじめだったようだ。ダイエーの経営再建と中内氏の評価が定まるのはまだまだ先のようである。
「いま栄華を誇る者が未来永劫にその地位にあることはない。自らを変革していける者のみが生存を許されるべきだ。」(中内氏の名著「わが安売り哲学」より)