海野十三敗戦日記 (中公文庫BIBLIO)
未来の戦争を予想した小説家が書き残した日本にとっての黙示録です。この人は空想科学を扱った作家であり、ある意味で日本史の預言者であったように思われます。1938年に「東京空爆」という小説を書いて木造住宅の密集した東京に空爆が行われたらどうなるかを冷静に予測していたそうです。しかし、この人が小説や新聞への投書でたびたび行った警告に耳を傾ける人は誰もいなかったと思われます。どうやら旧約聖書にあるように預言者は故郷に受け入れられないということなのでしょうか。この人が敗戦の報せを聞いた後に一家で死ぬことを考えたとか海野十三というペンネームを二度と使わなかったというのも考えさせられるお話です。この他にも原爆の出現を予想していたとか1940年の時点で既に自宅の庭に防空壕を造ろうとしていたとかいう仰天の事実が記されています。当時も今も先の見えない時代ですがこんな時だからこそ出来るだけ沢山の人に海野十三のことを知って欲しいと思います。
風間光枝探偵日記 (論創ミステリ叢書)
風間光枝探偵譚は大下宇陀児・海野十三・木々高太郎によって戦前、雑誌『大洋』に連載された連作小説9話。連作といっても『江川蘭子』のように1つの筋をリレーで続ける訳ではなく1話読切型なので、全体の整合性がさほど気にならず作者各人の色を楽しむ事ができる。その他海野十三の単独作である風間三千子もの「科学捕物帳」と「蜂矢風子探偵簿」を収録。帆村荘六もゲスト出演。過去、個々の単行本に分散していたり未刊だったものを綺麗にシリーズ・コンパイルした好企画。このところ森下雨村→延原謙→横溝正史と新青年編集長が続いた『論創ミステリ叢書』だが次回は水谷準や、比較的ビッグネームの海野十三、大下宇陀児もやってみてはどうだろう?