三陸海岸大津波 (文春文庫)
古来、村の古老の教えに間違いは無いと言われてきた。長年の経験に基づく智恵は頼りになると信じられてきた。
しかし、この本を読むとそれが偽りであることがわかる。「津波は冬の晴れた日は来ない」との古老の言葉を信じて死んでいった数万人の人々、その他諸々の言い伝えに騙されて死んでいった無数の人々の叫びがこの本には凝縮している。
著者の主観を排した冷静な視点から書かれたこのドキュメンタリーは読者のこれからの人生の導きともなるかもしれない。自分のカンを信じて他人の雑音を排して突き進もう。
休暇 [DVD]
テーマの抱える重みとともに本当に、静かな映画でした。
子連れの女性と結婚することになったベテラン刑務官が、新婚旅行のための休暇を得ようと、死刑執行の支え役を買って出たことからわき起こる様々な葛藤が、刑務官と死刑囚のリアルな日常描写とともに静かな緊迫感の中で綴られます。
静かに話が進んで行き、処刑のシーンも静かに同じテンポで進むんですが、その分衝撃が大きい。普通の一般人には想像を越えた死刑が執行されるまでの裏側。小林薫、大杉漣、西島秀俊など芸達者キャスト揃いで、セリフがなくても スクリーンに 映ってるだけで、いろんなものが伝わって来たり見えてきたりします。そして、判断や 印象・感想は、観た人それぞれにゆだねています。
私個人的には、死刑制度に関しては廃止論者ではありません。ただ、仕事とは言え、彼らにこんな重い傷を負わせていいのかと思う。本作のコピー『生きることにした。人の命とひきかえに。』がズシリと重い。せめてもの救いは、主人公と再婚相手とその子供の幸せそうな姿。
仕事をしっかりやっただけのことなのに、この傷を背負いながら幸せであって欲しいと願わずにはいられません。
関東大震災 (文春文庫)
まだ私が幼い頃、祖母が関東大震災の話をよく聞かせてくれました。
幼い孫にどうにかして地震、そしてそれが引き起こす火事の怖さを伝えようとしていたのだと思いますが、
祖母はいつも何かもどかしさを感じていたように見えました。
本書を読み、そのもどかしさの一端が分かったような気がします。
その当時の恐ろしさ、パニック、混乱を表現できる言葉が見つからなかったのではないかと。
いくら強い言葉を並べてもその恐怖のかけらにもおっつかない、それがもどかしい素振りに出たのではないかと。
本書は関東大震災を体験された方の証言や当時の報道をもとに被害状況や社会情勢を淡々と語っています。
あまりの凄惨さにややもするとフィクションを読んでいる気になってしまうのですが、
それが現実に起きたことだと思い返すたびに溜息をつかざるを得ません。
私が本書を通し、活字から受けた脅威ですら言葉には表せません。
「被服廠跡では、逃げようとしても倒れた人が服を掴んで離さなかったんだよ」
そう語った今は亡き祖母からもう一度、話を聞きたくなりました。
魚影の群れ [DVD]
緒方拳、夏目雅子、佐藤浩一という演技力ある俳優達がぶつかり合い、映画の本質を見せられるような素晴らしい作品です。
各々が演技を超え人物になりきっている様は見るものを圧倒させる力があり、心が騒ぐというか映像の中に自分が飲み込まれていくような気持ちになりました。とても満足できる逸品です。
敵討 (新潮文庫)
一編目の「敵討」は、殺された伯父の敵を伊予松山藩の甥がうつという話。水野忠邦や鳥居耀蔵などの大物の陰謀が鍵を握っているわりには、内容の広がりがなくちょっと残念。当時の義理人情話として読めばOKってとこか?
二編目の「最後の仇討」は、幕末の動乱の中、幼くして両親を惨殺された主人公が長年にわたり犯人を捜し続けるが、敵討ちの禁止された明治になり、犯人は裁判所に勤める役人になっていた。さあどうする?
廃藩置県により藩士が役人になっていくようすは、官僚国家日本の原点を見るようで、変なところで感心してしまった。主人公の執念と時代の変わり様が丹念に描かれており、それなりに楽しめた。