これからの思考の教科書 ~論理、直感、統合ー現場に必要な3つの考え方~
本書のメインは第三部なので、それまでの垂直思考と水平思考は復習的な位置付けかもしれませんが、とても分かりやすかった。
垂直思考は、説得力と問題解決力を高めるための方法が解説されています。
水平思考は、「ひらめき」を扱うので論理的な理解が難しいかと思いましたが、基本となる発想法や有効なツールが具体的に紹介されており、実践で使えるものだと思います。
また、思考の役割・必要性のまとめ方がうまい。
・垂直思考は必須だが、それだけだと差別化ができない。水平思考の出番。
・かといって、創造力だけでも何も生まれない、幅の広い知識や地道な積み上げが必要。
そしてメインの統合思考について。
一読してスッキリすることはできませんでしたが、
垂直・水平の各軸方向の強みを理解して(ここで第一部と二部の解説が生きる)、プロセスの中で使い分けながら新しい発想を生むための方法が解説されていると理解しました。
本書で解説されている学びや企業経営のプロセスを実践していくことで、より身に付くことができるのではと思います。
システム障害はなぜ起きたか~みずほの教訓
コンピュータ制御を活用した巨大システムは、日常生活に必須なものとなっています。ハードウェア、ソフトウェア、そしてヒューマンウェアの組合せでシステムの安全稼動が保たれています。航空機、原子力施設、プラントや工場などではこの3ウェアのどれかが壊れると事故になり多くは死亡事故という悲劇の結末を迎えることになります。
みずほの「システム障害」の後前田社長の国会委員会での発言、「実害は無かった」は象徴的な発言でした。確かに、銀行のオンラインシステムでの障害で、航空機事故のような直接の悲劇は起こりません。しかし、「システム障害」で起こったことは巨大システムの運用責任者として「悲劇」に対する責任は同等のものです。
第一部では、巨大銀行合併発表から「悲劇」が発生するまでの、システム開発での混迷を詳細に記述している。システム開発での技術ばかりでは無く、3行と関連のある、日本を代表するコンピューターメーカー、そして巨大システムを開発している3行出資のシステム開発会社などの関わりあいの人間的な混迷にも深く触れている。「現場は不眠不休で頑張った」と著者は同情を表明している。さらに突っ込めば、日本的な意思決定メカニズに切り込んでいくことでしょう。
第二部では、北洋銀行の拓銀システムへの統合、東京三菱の東京銀行システムとの融合、UFJの全く新しいシステム構築などの「失敗・成功」例の教訓に言及している。ここで出てくるシステム開発を推進した人々の個人名は強烈なリーダーシップを感じさせ、第一部でほとんど個人名の出てこないシステム開発と対照を見せている。
第三部では「日経コンピュータ」が訴えつづけてきた「動かないコンピュータ」への対処方法が記述されている。
「悲劇」が起こるまでの経緯、「失敗・成功の事例」、そして「悲劇を起こさないための10カ条」を緊急にまとめた本書は、あまり技術的でない経営トップの入門書として最適な一冊であろう。
経済ラップ 株式投資編
正直、歌詞は経済に詳しい方が耳にすると薄っぺらいと感じるかもしれません。
歌で出来るだけ具体的な例を挙げながら、わかりやすく解説しているので…。
逆に、経済を勉強し始めた人や、曲のタイトルを見て「この言葉って何だろ?」と思った人は一度聞いてみると良いかもしれません。
曲のリズムも悪くないと思います。
MP3で「連結決算」や「減価償却」といった会計的な歌もあるので、CDの続編を期待したいです。
企業の人間的側面―統合と自己統制による経営
大抵の人が一度は名前を聞いたことがある有名な本です。アメとムチで人を動かすX理論と、目的意識があれば誰もが自ら努力するとするY理論です。ですが、それだけではありません。
この本は3部からなります。第1部が経営の方法の理論的考察。どうすれば人が本来持っている能力を十分引き出せるか。誰にもある自己実現の欲求から、目的意識に基づくY理論を導きます。理論の部分が有名ですが、著者がこの本を書いた意図はY理論を実現することです。
他にも第1部では、現代の企業では従業員の能力はほんの一部しか活用されていないこと、能力があるのは一部の人だけではないこと、責任回避は人間本来の性質ではないこと、などを強調しています。Y理論には理想状態を仮定している部分もありますが、それが経営方法の発展を促すのに必要なことを、物理理論の発展が多くの発明を生み出したことを例に挙げて説明しています。
第2部はY理論に基づいた管理の方法です。上から命令を押し付け、報酬で釣り、罰則で脅すのではなく、目的意識を持つように導き、自ら進んで行動するようにできれば、誰もが期待以上の成果を上げることを述べます。特に第5章の、Y理論に基づく副社長の指導と助言で、上役の顔色を伺うだけでやる気のなかった管理職が目的意識を持ち、部の改革に乗り出す姿は圧巻です。
その他に、ラインとスタッフの役割を述べ、従来の評価制度を批判し、Y理論に近いスタンロン・プランという報酬制度を紹介しています。以上が第2部です。
第3部では管理職の育成を取り上げます。リーダーシップとは何か。個人に内在するものではなく、個人と環境との関係であることを述べ、小さな部門と会社全体では求められるものが違うこと、それぞれにあったリーダーシップが必要なことを示します。
管理職を育成するには、知識を外から注入する「工業的」方法ではなく、環境を整え本人の自発を促す「農業的」方法を提案しています。また、どうすれば集団が効率的になるか、に著者は以下のように答えます。X理論の命令と統制を徹底しようとすると、究極的には「分割統治」となってしまい集団活動の効果が上がらないこと、Y理論に基づき個人と集団の利害が一致すれば、個人の能力の総和以上の成果が出せること、などです。
翻訳については、第1部を原著The Human Side of Enterpriseのネットで公開されている部分と比較しましたが、著者が直接日本語で書き下ろしたのかと思うほどの自然な翻訳です。第2部は下訳者が変わったためか、第6章と第7章に、誤訳かもしれないやや理解しにくい文があります。この部分は原文を参照できませんでした。第3部は普通の翻訳書の文体に戻ります。それほど日本語として自然ではありませんが、特に理解しにくいこともありません。
最後にPeter DruckerがMcGregorについて書いたことばを引用します。"With each passing year, McGregor's message becomes ever more relevant, more timely, and more important." 「年を経るごと、マグレガーのことばが的を射、時を得、重みを増す。」(私訳)
この本を経営思想の歴史の中に埋もれさせておくには勿体ないと思います。特にリーダーシップに関して気付かされることの多い本です。部下を持つすべての方にお勧めしたいと思います。