ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番&第3番
作家の村上春樹さんのエッセイ「意味がなければスイングはない」でこのCDが紹介されており、ラフ2好きとしてはおさえておこう、くらいの軽い気持ちで購入したのですが、第一楽章冒頭のあのフレーズのなんと生々しいことでしょう。まるで心臓の鼓動みたいでした。人間の脈動がそのまま音になっているようで、最初は薄気味悪いくらいのリアリティーを感じて怖くなったほどです。正直びっくりしました。
しかし第二、第三と、何回きいてもまったく飽きのこない、微妙なニュアンスに富んだおもしろい演奏です。本当に繰り返しの視聴に耐える名盤だと思いました。
他の方のレビューにもあるとおり、破綻のない、たいへんバランスの取れた演奏です。だからすーっと耳に入るし、ピアニストのジルベルシュテイン氏の「言いたいこと」がすごく伝わる気がします。
よくある名人芸的な「これでもか」の演奏ではなく、ジルベルシュテイン氏は「音楽に語らせて」います。「俺が俺が」ではなく「協奏曲」が語っています。
思いがけず、自分にとってのベスト盤になってしまいました。
これまではクリスティアン・ツィマーマンと小澤征爾のボストン交響楽団のものが最高だったのですが、かなり男性的というか、勢いのあるそちらより、音の細かさ、陰影の深さでこちらが大好きになりました。
どこかで聴いたクラシック ピアノ・ベスト101
有名なピアノ曲はほぼ網羅されているという感じです。「乙女の祈り」「エリーゼのために」「愛の夢第3番」「英雄ポロネーズ」といったピアノ名曲集と銘打ったアルバムには定番の曲は概ね入っています。
各ディスクごとの収録時間は、
1.67:55 2.72:11 3.75:07 4.80:20 5.72:51 6.77:52
であり、1枚目がやや短いものの概ね申し分ないでしょう。
録音状態も、CD購入の際の比較検討の対象となりうるEMIの「ベスト・ピアノ100」と比較すると、それ程悪くはありません。比較的最近の録音も多いですし、一部にノイズが若干気になる古い録音もありますが、全てステレオ録音です。
あと、参考のため「ベスト・ピアノ100」には収録されていないのに、これには収録されている主な曲を挙げますと、「花のワルツ」(チャイコフスキー)・「ガヴォット」(ゴセック)・「金婚式」(マリー)・「タンブラン」(ラモー)・「高雅にして感傷的なワルツ」(ラヴェル)・「即興曲第3番」(シューベルト)・「木枯らしのエチュード」(ショパン)などなどです。特に「花のワルツ」「ガヴォット」「金婚式」は珍しいピアノソロを聴くことができるので、ポイントが高いと思います。
逆に「ベスト・ピアノ100」には収録されているのに、これには収録されていない主な曲は、「かっこう」(ダカン)・「2声のインヴェンション第1番」(バッハ)・「トロイカ」(チャイコフスキー)・「黒鍵のエチュード」(ショパン)・「塔」(ドビュッシー)・「葬送行進曲」(ショパン)などなどです。
で、結論としては私はこちらをお勧めします。ブックレットの曲解説も限られた紙面の割には詳しいですし。