チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲
どうやらこの演奏・・・っていうか、このディスクを聴くのには若干のコツが要るようだ。
いい意味でかなり個性的な諏訪内晶子のここでの演奏は、
テンポや音の強弱のコントラストが強く感じるのだが、うっかり中途半端な音量で聴いてしまうと
いまいちピンとこない演奏に思えてしまい、とくに第一楽章ではダレた印象がどうしても消える事はなかった。
それでも第2・第3と楽章が進むごとに音に生命が宿っていくのが判り、
控えめな第一楽章はそのためのものだったのかと思ったりもしたのだが、
よくよく考えると実際の演奏はそんな音量である筈もないので、思い切って音量をあげて聴いてみてはじめて
それまでの自分の印象がズレていた事に確信を持ってしまった。
・・・ほんと、変な話だが。
録音された時の環境に依るものなのかどうかは判らないが録音レベルがいくらか低いめになっているようで、
できる限り意識的に音量を上げて聴くと諏訪内晶子の演奏の本来のカッコ良さがはっきりと判るハズだと思う。
・・・でないと一寸もったいないかなと。かしこ。
NHKライブラリー ヴァイオリンと翔る
今までの私の諏訪内さんの印象は「美人で凛とした才能に恵まれた天才」でした。しかし、この本を読んで考え方が変わりました。正直、小さい頃からこれほどの努力をし、チャイコフスキーという最高峰を制覇してからも自分に奢らず自分をいつも見つめ考え、コロンビア大学で政治学などの勉学もされた。それも本職をおろそかにしないようにとの事だったのだから、どれ程の努力をされた事でしょうか。プロだから当たり前と言えばそれまでですが・・。出会った方々の真摯なアドバイスも謙虚に受け止めまた見つめ直し努力する。本当に凄い方です。
私はただの一般人だけど、人として諏訪内さんの生き方を見習いたいと思える本でした。その後、パガニーニのDVDを見ましたが、この本を読んでからだったので本当に感動しました。いつか、まだ諏訪内さんの中では納得出来ていないブラームスとベートーベンの協奏曲をカップリングでCDが出ることを心待ちにしています。
この本はすぐ在庫切れになってしまいますが諏訪内さんがどんな理由であれ好きな方は本当にお勧めです。
新版 クラシックCD 演奏家篇 (文春新書)
編集者から「日本人演奏家をできるだけ入れてください」と言われたとのことで、結果、諏訪内晶子と前橋汀子等が新たに入れられた。しかし、3名による評価を読むと、宇野氏による前橋氏に対する評価は別として、その他の批評は、なぜわざわざこの2人を入れたのかわからないほどひどい評価となっている。また逆に、旧版にあったユーディ・メニューインがなくなってしまった。メニューインに対する中野雄氏の評論はすばらしいものだった。「いくら生まれつきの才能があっても、若いときの職人的基礎訓練が必要不可欠である」といった内容の中野氏による批評を、私は、会社の若い社員の教育の際に、何度か引用させていただいた。新版においては、旧版にあった「21世紀に語り継ぐべき音楽家」という選定基準がなくなってしまったことが、旧版に比べて、この本の価値を著しく下げた。また、中野氏の書いたバイオリンの名器がなぜ生まれたかというコラムも、当たり前の内容で、つまらなかった。旧版の魅力の3分の2くらいは中野氏による評論であっただけに、残念に思いました。ということで、私の結論は、旧版を持っていない人は買う価値があります。でも旧版を持っている人は買うほどではないという結論です。
諏訪内晶子 & イタリア国立放送交響楽団 [DVD]
3つの収録曲の中で諏訪内さんが弾いているのはパガニーニだけなので、彼女を見たかった人にはもう1曲ボーナストラックでも欲しい感じですが、映像が左指、右腕とアップ、よく観察でき、何度も繰り返し見て楽しんでいます。早いパッセージの演奏途中で弓が1本切れるハプニングも写っていて面白い。(演奏に邪魔にならないかと冷や冷やしながら、事の次第を見守っていました。)それと、べートーヴェンの交響曲第8番も収録されているのはお得な感じ。
シベリウス:ヴァイオリン協奏曲
諏訪内晶子のライブは2度ほどしか観たことがない。どちらも協奏曲だったのだが、彼女は颯爽と舞台に現れ、自分の演奏が終わるとすーっと舞台から消えていった。それは、冷たいフィギュアのようでもあり、主役は私ではないという主張のようにもとれた。
そんな彼女に、シベリウスのヴァイオリン協奏曲はとてもよく似合っている。正確無比な冷たい機械のように、なんの感情も表にあらわすことなくヴァイオリンを奏でる。息もつかせぬスリリングな展開なのに、冷たく煌めく光が微かに見えるだけだ。再生装置から流れ出るドルフィンの音色が、鋭い刃物のように心を貫く。指揮のサカリ・オラモには、ラトルが去った後のバーミンガム市交響楽団でのシベリウスの交響曲全集があるが、こちらも大自然を感じさせる名演で、まさにうってつけのサポートをしている。
カップリングのウォルトンの協奏曲は、ハイフェッツの委託により完成したものだが、現在ハイフェッツの愛器ストラデバリウス「ドルフィン」を貸与されている彼女ならではの演奏。どちらも名演。