影武者徳川家康〈上〉 (新潮文庫)
本作品は著者の出世作である。長編の本作品は家康があっけなく暗殺されるあたりから始まるところに驚かされる。そのための苦肉の策として影武者世良田二郎三郎が家康の身代わりになった。というより本当に家康に成り代わった。影武者家康自身も完全にその気になって采配をふるっているが、秀忠はその事を知っていながら事実を言い出せないもどかしさが面白い。その上、ようやく秀忠の時代が来ると思ったら、今度は影武者家康の大御所政治で秀忠を翻弄する。このあたりは少し笑ってしまった。
著者は家康影武者説の証拠をいくつも挙げていて、なかなかリアルな印象だ。ただ、本作品は地方新聞の連載小説として掲載されたためか、作品全体の構成が少し緩慢になっている感を受ける。しかしこの卓越した着想が、その程度の事は凌駕してしまう。本作品は歴史小説界の金字塔だ。
影武者徳川家康〈下〉 (新潮文庫)
故・隆慶一郎の代表作。エンターテイメントとしての完成度を歴史書の衣裳で包んだかのような仕上がり。読み終えたときの、熱く静かな充実感は、傑作ならでは生まれ得ぬものでしょう。一つ一つの言葉の選び方・遣い方、特に台詞は秀逸。ラストのお梶と二郎三郎の台詞は、脚本家・池田一朗の面目躍如といったところです。
影武者徳川家康〈中〉 (新潮文庫)
とにかく先が読みたくて仕事も手につかないほど面白い。
きまった史実の中で、チーム二郎三郎はどう泳いでいくのか。
そして、大阪の陣へどうなだれ込んでゆくのか。
非常に楽しみである。
この人の作品には、人間 隆慶一郎の世界観が随所に現されており、
あー、こういう人だったんだなぁと思うと、
短い作家生活が惜しまれる。